Share

18  地底湖にて

Penulis: KAZUDONA
last update Tanggal publikasi: 2025-11-22 15:50:24

「あ、戻って来た。カリナちゃーん!」

 死者の間の祭壇から帰還して来るカリナを見つけたエリアは、安堵の表情で手を振った。

「もう用事は済んだのか?」

 ロックは口に何かを入れた状態で、手にはサンドイッチが乗せられている。

「ああ、一応な。ってなんだ、食事中だったのか」

 持ち込んだ食材をセレナとアベルが手際よく料理している。それをヤコフを含めた他の面々が食べているところだった。エリアもアイテムボックスから次の食材を取り出しているところだった。

 元NPCであっても冒険者はアイテムボックスを使うことができるのかということをカリナは初めて知った。確かにこの迷宮に挑むとき、彼らは大した荷物を持っていなかった。それはこういうことだったのかとカリナは得心した。

「食事は簡単なものだが、一応拘ってやっているんだ。冒険中には腹が空くこともある。食べるってのは活力を回復させるのには一番だからな」

「そういうこと。まあそんなに手の込んだ料理は作れないけどね」

 アベルとセレナは起こした火の上で薄い肉や野菜を焼いて、それをパンに挟んでいる。香ばしい肉の焼ける匂いが、アンデッドの腐臭を一時的に忘れさせてくれる。そう言えば、もう迷宮に入ってそれなりの時間が経つ。昼を回っている頃だ。カリナは自分も多少小腹が空いていることに気付かされた。

「ほら、カリナ嬢ちゃんも食べな。飲み物はお茶を沸かしてある」

「そうだな、お前達が食べているのを見ていたら小腹が空いて来た。じゃあ頂こうかな」

 アベルから熱々のサンドイッチとお茶を受け取り、地べたに座り込む。簡単な食事だが、活力が体の芯から湧いて来るのを感じる。現実の冒険であれば当然のことだが、途中で補給を行う必要がある。VAOがゲームのときにはなかった現実的な問題である。これも世界が変わった影響で、今後もこういった発見があると思うと、カリナは内心ワクワク感が湧き上がって来るのを感じた。

「ヤコフ、ちゃんと食べているか?」

「うん、さっき貰ったから食べたよ。美味しかった」

「そうか、良かったな」

 魔物をヒルダが一掃したので、辺りにはもう何の気配もない。時間が経てばリポップすることになるのだろうが、暫くは問題ないだろう。渡されたカップに注がれたお茶を啜りながらカリナはそう思った。

 食事を終え、少し休憩した後、一同は地底湖のある階層に進むことに決めた。普段は何も出現しない、鍾乳洞の氷柱が神秘的な地底湖である。だが、まだヤコフの両親は見つかっていない。カリナはこの下に必ず何かがあるに違いないと、気を引き締めた。

 湿った冷気と共に、カビと水の匂いが混ざった独特の空気が漂う。階段を降りて来た先には小さな地底湖が中心にあるエリアだ。小さいとは言え、水たまり程度ではない。それなりの大きさがあり、暗い水面はどこまでも深く続いているように見える。  

 ホーリーナイトにヤコフの守護を命じて、探知スキルを発動させる。するとやはり反応がある。三つの反応があったが、その内二つの反応はやけに弱々しく、今にも消え入りそうだ。

「探知に反応がある。反応は三つ。だが二つはかなり弱っている反応だ。……気を付けろ、何かが潜んでいるぞ」

「この付近を調べましょう。確かに何かの気配を感じるわ」

 エリアの声に緊張が走り、一同は周囲を警戒し始める。カリナは探知の反応があった湖の岸辺付近、その中で一番反応が大きく、そして禍々しい気配を放つ何者かに向けて、魔法で氷のつぶてを創り出し、投げつけた。アイス・ヴァレットの弾丸が湖の浅瀬に炸裂し、水しぶきを上げる。

「やはり来たか……。それなりの実力がある冒険者がこの迷宮のアンデッド如きに後れを取ることなど早々ないからな」

 水面が盛り上がり、浅瀬の中からゆっくりと浮上する巨大な黒い影。5mはありそうな体躯を覆う赤黒い甲殻のような鎧。背中からはコウモリの様な不気味な飛膜の翼が広げられ、水滴を弾く。赤くギラついた両目に大きく裂けた口には何本もの鋭利な牙が並ぶ。そして何より側頭部からは天を突くように伸びた鋭い二対の角。両手には人の身の丈程もある巨大な死神の鎌を手にした異形の姿。悪魔である。

「な、そんな、なんでこんなところに……!」

 ロックが驚愕の声を上げる。悪魔が体から発する、肌を刺すような禍々しい魔力のオーラに気圧されたのだ。

「なんて重厚でどす黒い魔力……。これが悪魔なの?」

「噂には聞いていましたが、本物を見るとさすがに恐ろしくなりますね……」

「ちっ、なんて威圧感だ。空気が重たい」

 悪魔の魔力の圧に当てられたシルバーウイングの面々は腰が引け、後退る。だが、そんなものは物ともせず、カリナが一歩前に出て問いかける。

「貴様はここで何をしている。ヤコフの両親を何処へやった?」

 此方の反応を一頻り観察した悪魔が、醜悪な笑みを浮かべてその口を開く。

「クカカカカ、またしても生きのいい人間共が現れるとは。これは僥倖。して、小娘よ、貴様の言う者達とはこいつらのことか?」

 悪魔が指を弾くと、地面の中から影でできている様な黒い泥の手が無数に伸び、それに縛られた二人の大人の冒険者がずずずと浮かび上がって来る。剣士の男性と僧侶の法衣に身を包んだ女性である。影の手が脈打ち、彼らの身体から少しずつ精気を奪っている。カリナはあの腕がライフ生命力スティール強奪の魔法であると見抜いた。一瞬で奪い取るのではなく、少しずつ時間をかけて真綿で首を絞めるように生命力を奪い取り、苦痛と絶望を味わわせているのだ。

「悪趣味な……」

 カリナは悪魔との邂逅とその下卑たやり口に憤りを覚えたが、すぐさま冷静になり、左耳の魔法イヤホンに魔力を注いだ。カシューと連絡を取るためである。

「聞こえるか、カシュー?」

『ちゃんと聞こえてるよ、どうしたんだい? どうやら緊迫した状況のようだね』

「細かい話は聞きながら推察してくれ。悪魔と接敵した。なるべく情報を聞き出す。口は出さずに聞くことに専念してくれ」

『了解した』

 カシューは此方の状況を理解すると、口を出さないように切り替えた。カリナとのやり取りから少しでも悪魔の情報を引き出すためである。

「生きのいい人間を襲っているようだが、何が目的だ? まあいい、先ずはその二人を返してもらうぞ」

 指先だけで二人の足元にシャドウナイトを二体召喚すると、その黒い大剣がライフ・スティールの魔法の腕を一閃のもとに斬り裂く。そして落下して来た二人を抱きかかえると、黒騎士達は瞬時にカリナの後方へと帰還して来た。

「速い! 何という鮮やかさだ」

「感心するのは後よ、ジェラールさん達を助けないと!」

 構えを崩さないアベルの後ろで、エリアとセレナは黒騎士が抱えている二人の容態を観察する。顔色は土気色で呼吸も浅い。極度の衰弱状態だ。このまま治療しなければ衰弱死する可能性が高い。

「カカカッ、ほう……こいつは面白い。我の魔法から一瞬で二人共救出するとは。折角我が王への贄にしてやろうと思っていたのだがな」

「贄だと? 我が王とは誰だ? 貴様は何のために人間をここで待ち伏せていた?」

 少しでも情報を聞き出すために、カリナは時間を稼ぐ。

「まあいい、貴様らを全て贄とすれば我が王も喜びになろう。先ずは小娘、貴様から我の相手になるとでもいうのか?」

「ちっ」

 会話が上手く成立しない。やはり悪魔との意思疎通は難しいのかもしれない。

「もう一度問う。貴様の言う王とは誰のことだ?」

「カカカ、小娘よ、貴様が知る必要などない。この世界は次期にあのお方のものになるのだからな。さあ、先ずは貴様らを我が王の贄としてやろう」

 やはり答える気はないらしい。それに向こうは既に臨戦態勢に入っている。膨れ上がる殺気が肌を焼くようだ。

「仕方ない。少々痛めつけてやるしかないか……。お前達、戦えるか?」

 カリナの問いにまともに答えるものはいなかった。情況的にもヤコフの両親を放っておくわけにもいかない。黒騎士に抱きかかえさせていた二人を降ろすと、その二体をカリナは自分の前方に配置する。

「全く戦えないとは言わないが、自分の命を省みないことにはなるだろうな」

「全くだ。こんな化け物と対峙しているだけで足が震えやがる」

 上級冒険者であるアベルもロックも、武器を構えて相手の出方を待つのに神経をすり減らしている。二人共それなりにこれまで修羅場は潜り抜けて来たつもりだったが、目の前にいる悪魔の圧力はこれまでに経験したことがない、生物としての格の違いを見せつけられるものだった。何もしていないのに冷や汗が吹き出し、顔や全身を伝う。

「私達は無理よ。この二人の容態を見ないと、衰弱死してしまうわ!」

「一刻も早くこの場から撤退するべきです! ヤコフ君もいるんですよ!」

 エリアとセレナの判断は冷静で現実的だった。ヤコフの両親の状態も危ない。そして自分達が加わったところで、無駄な犠牲が増える可能性も高い。ヤコフを守るホーリーナイトがいるが、それを意識の外にして戦うのは危険なだけだと二人は判断したのだ。

「わかった。巻き込んだのは私だからな。お前達はヤコフの両親を連れて下がっていろ。私が一人でやる」

 カリナが目を閉じ集中すると、全身から黄金色の魔力と白銀の闘気が激しく迸る。その光景を直ぐ後ろで見たアベルとロックは余りのオーラに慄いた。自分達よりも遥かに年下で小柄な少女が漲らせた闘気と魔力の渦に、悪魔の瘴気が押し返されたのだ。

 この死者の迷宮に同行したのも、いざとなればこの少女と少年を担いででも撤退する必要があると思い込んでいた。それが現実はどうだ、目の前にいる少女はここにいる誰よりも闘争心を漲らせて、強大な悪魔に立ち向かおうとしている。このままここにいては自分達の方がこの少女の邪魔になるかもしれない。そんな思いが渦巻いたとき、セレナの声が響いた。

「二人共早く引いて! 私達がいたらカリナちゃんが全力を出せない可能性があるわ!」

「わかった……」

「すまねぇ……、ここは退かせてもらう。だがあの二人は絶対に助けるからな。だから死ぬんじゃねえぞ、カリナちゃん!」

 エリア達の下へと退いて行ったアベルとロックをちらっと見ると、改めて悪魔と向き合い、素手の格闘術の構えを取る。

「ほう、小娘。貴様一人で我とやるというのか? クカカカカッ、笑わせてくれる。だがその前に名乗らせてもらおう。我は悪魔侯爵が一人、イペス・ヘッジナ。偉大なる我が王に仕える者の一柱である。人間の小娘よ、貴様の名を聞いておいてやろう」

 恭しく頭を垂れて気品に満ちた挨拶をする異形の存在。彼らには悪魔とは言え、貴族としての矜持が存在する。そしてその気位の高さは序列の高さに比例する。それでも悪魔の矜持など、人間からすれば下卑た卑劣極まるものでしかないのだが。

 悪魔の侯爵は上から二番目の序列である。この世界に来てから斃した悪魔は子爵と伯爵。彼らよりも遥かに格上の存在に当たる。果たして今の自分の力で相対できるのか、カリナには疑問もあった。相手のステータスが見えないというのはゲームでの感覚とは明らかに異なる。だが、ここでこいつを見逃せば、或いは自分が負ければ、後ろにいる者達まで死に追いやるということに繋がる。だというのに、カリナの心は恐怖ではなく、武震いのような高揚感で溢れていた。

「私はカリナ。見ての通りの召喚士だ。侯爵イペス・ヘッジナと言ったか、私が勝ったら洗いざらい吐いてもらうぞ」

 カリナがそう言うと同時に、配置していた黒騎士二体がイペスの巨体へと襲い掛かった。その大剣による連撃を、イペスは両手に持った鎌で軽々と捌く。そして流れるような動きで一体の黒騎士に向けて大鎌を振り被る。その一撃を大剣で防御したが、足元の地面がその衝撃に耐え切れずに崩れる。その隙を見逃さなかったイペスはその黒騎士の兜の右側に強烈な蹴りを放つと、黒騎士は弾丸のように湖の中に吹き飛ばされた。  

 もう一体の黒騎士の攻撃を大鎌の柄で受けると同時に受け流し、カウンター気味に大鎌の切っ先が黒騎士の胴体を捉え、抉る。残っていた黒騎士も、屑籠に放り込まれるゴミのように湖の方へと吹っ飛ばされた。

「召喚士か、ならばこれでもう召喚体はいまい。勝負あったな」

 イペスが勝利を確信し、嗤う。

 シルバーウイングの面々はヤコフの両親、剣士ジェラールと僧侶のクリアを運んで、この層に降りて来る階段の影にまで移動していた。衰弱状態の二人にエリアがライフポーションを飲ませ、セレナが気つけ薬を与えていた。そして悪魔との戦いを見ていたアベルにロック、ヤコフはシャドウナイトが二体共吹き飛ばされる瞬間を目にした。

「おいおい、あの黒騎士が……」

「マジかよ、何て強さだ。大丈夫なのかカリナちゃん……」

「……。大丈夫! カリナお姉ちゃんは僕を守ってくれるって約束してくれたんだ。絶対に負けないよ。お父さんとお母さんも助けてくれたんだから!」

 ヤコフが泣きながらも強く答えたのに対して、二人は「そうだな」と相槌を打った。

「今はカリナ嬢ちゃんを信じよう。我々はヤコフの両親を必ず助けなければ」

 黒騎士が二体共湖に吹き飛ばされたカリナだったが、召喚体を倒したと思い込んで粋がる悪魔に対して、一切の動揺を見せず、意を決して駆け出した。格闘術、瞬歩しゅんぽ。一瞬で距離を詰め、懐に潜り込む。驚愕に見開かれるイペスの眼前に、カリナの姿が現れる。左手で腰の捻りを極限まで入れた掌底を、イペスの脇腹に深々と捻じ込んだ。格闘術、龍掌底りゅうしょうてい。一撃に見える掌底から、二重三重と波状に繰り出された衝撃波が悪魔の強固な鎧を透過し、脇腹の内臓を抉った。

「ぐはあ!? き、貴様! 何をした!?」

 飛び退き後ろに距離を取るイペスの顔には、召喚体を潰されたのに素手で飛び込んで来た少女の、意表を突いた奇妙かつ強烈な一撃に苦悶の表情が浮かんだ。

「軽く小突いただけだ。そういきり立つなよ」

 カリナはふてぶてしく笑って見せる。聖衣ドレスを纏っていない状態での悪魔との接近戦はこの姿では初だったが、カリナは「いける」という確かな手応えを今の一撃で掴んだ。

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi

Bab terbaru

  • 聖衣の召喚魔法剣士   127  剣術大会閉幕

     ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。   実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに

  • 聖衣の召喚魔法剣士   126  神衣と神器

     熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から

  • 聖衣の召喚魔法剣士   125  女神との激突

     熱狂と興奮が飽和するコロシアム。   準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!

  • 聖衣の召喚魔法剣士   124  氷の剣士と女神の剣技

     熱い興奮が渦巻くコロシアム。   準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。   淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ

  • 聖衣の召喚魔法剣士   123  黒衣の魔剣使い

     準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣

  • 聖衣の召喚魔法剣士   122  カリナ対エリア

     休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一

  • 聖衣の召喚魔法剣士   67  霧の街とゴシックドール

     世界樹の森を後にしたカリナは、ペガサスで休憩をはさみながら北上を続けた。   日が傾き、空が茜色から群青色へと変わる頃、眼下に霧に包まれた幻想的な街並みが見えてきた。目的の街、リシオノールだ。 街から少し離れた街道沿いにペガサスを降ろし、労いの言葉と共に送還する。そこからは隊員を連れて徒歩で南門へと向かった。 リシオノールは「霧の街」の異名を持つ。五大国の一つである陰陽国ヨルシカの和風の文化圏に近い影響を受けており、夕刻になると立ち込める白い霧の中に、瓦屋根や木造の格子戸といった和の風情を感じさせる建物が浮かび上がる。  石畳の道もしっとりと濡れ、軒先に吊るされた提灯の淡い光が、幻

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-25
  • 聖衣の召喚魔法剣士   64  世界樹の下へ

     一夜明け、ザラーの街に清々しい朝が訪れた。窓から差し込む陽光に目を細めながら、カリナはベッド脇の例の「メイド隊からの衣装」セットの二つ目を取り出した。「……さて、今日の『着せ替え』はなんだ?」 恐る恐る広げたその衣装を見て、カリナは天を仰いだ。「あいつら……本当に森に行く気があるのか?」 そこに入っていたのは、白を基調とし、鮮やかな黄緑と黄色のリボンやフリルがあしらわれた、体のラインが出るタイトなローブ。しかもフードには、ふっくらとした「猫耳」がついている。インナーは紫に白と黒のデザインが施されたシックなワンピースだが、足元はガーターベルト付きの白いニーハイソックスに、黒地に白いラ

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-24
  • 聖衣の召喚魔法剣士   62  戦場の女神

     ヒースの部屋を出てロビーに戻ると、そこは殺気立った空気に包まれていた。 負傷している者、装備を点検して飛び出していく者。怒号と悲鳴が飛び交う中、数人の冒険者が地図を囲んで深刻な顔で話し合っているのが耳に入った。「南西の防衛線が危ない! 急造の砦を築いて凌いでいるが、魔物の数が多すぎる!」 「正規軍の騎士団も限界だ。このままじゃザラーまで雪崩れ込んでくるぞ!」 彼らの会話を聞いたカリナは、迷わず彼らの元へと歩み寄った。「その南西の砦、私が加勢に行こう」 凛とした声に、冒険者達が振り返る。だが、彼らの目に映ったのは、フリルたっぷりの緑のドレスコートを着た、深窓の令嬢のような美少女と、二

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-24
  • 聖衣の召喚魔法剣士   58  召喚士のプライド

     聖衣が解除され、フロストリアが光の粒子となって消えた後もしばらくの間、騎士団演習場は静寂に包まれていた。   誰もが言葉を失っていたのだ。精霊の女王という伝説的な存在を、力と格でねじ伏せた事実。そして最後に放たれた、戦車の砲撃すら耐えうる「白銀鉱」の的すら粉砕する一撃。 パチパチパチ…… 最初に拍手を送ったのは、観客席から降りてきたカシューだった。それを合図に、堰を切ったように割れんばかりの歓声と拍手が演習場に響き渡った。「見事だったよ、カリナ。まさかあの精霊女王をこうもあっさりと従えるとはね」 カシューが歩み寄り、友としての顔で笑いかける。「あっさりじゃないさ。魔

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-23
Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status